フリーダイヤルにおつなぎします。
しばらくお待ちください。

「お電話ありがとうございます。多目的人材派遣のKI-TSU-NEスタッフでございます。担当はわたくし、二ノ宮がお受けいたします」
「えー、会員番号877の神谷と申しますが、派遣スタッフをお願いします」
「派遣のお問い合わせですね。ご利用ありがとうございます。会員番号は877ということですね。・・・は。神谷祐次様ですね。いつもありがとうございます。今回はどのようなご依頼になりますか?」
「少々困ったことになっておりまして、私は個人で洋服店をしているのですが、最近近場に紳士服のコナカができて以来売上が芳しくないのです」
「神谷様が経営していらっしゃる洋服店が、最近出来た紳士服のコナカのために売上が伸び悩んでいるということですね」
「はい。それで一計を講じましてフォーマルスーツの一掃処分と赤札企画と同時に、この機会に春物を購入してくれたお客さんに対してセールを行おうと思うのです」
「なるほど、フォーマルスーツ一掃処分と春物のフェアを同時に行うということですね」
「そうなんです。しかし、国道沿いの辺鄙なところに店があるんです。告知方法に悩んでおりまして、場所が場所だけに看板を書き換えても効果は薄いだろうし、大手の折込広告にはかなわないと思うんです」
「わかります。それではどのように告知のお手伝いが出来るでしょうか」
「それでですね、御社のスタッフの方を3名ほどお借りして、まずは3日間限定でフォーマルスーツ一掃のポスティングを広範囲にやっていただきたいんです」
「かしこまりました。ポスティング要員を3名ですね。期間と時間さえご指定していただければ明日にでもご用意させていただきます」
「そ、それでもうひとつ、これがメインなのですけども」
「メイン?メインでいらっしゃいますか?特殊業務については特殊形態労働手当てが発生いたします。どのような業務でしょうか?」
「金髪のうさんくさい男の外人さんを一人ご用意していただきたいのです」
「金髪のうさんくさい男性外国人スタッフということですね。うさんくさいと申しますとどのようにうさんくさいのでしょうか。素性ですか?着ている物、佇まい、体型などいろいろな要素があると思いますので」
「金髪のマッシュルームカットです。カツラでも構いません」
「金髪のマッシュルームカット、かしこまりました」
「大きな赤縁の眼鏡をかけていて、鼻が大きくて白いスーツを着てもらいたいのです」
「なるほど、大きな赤縁の眼がね、白いスーツ。鼻が高いとは、鼻は『高い』のでしょうか『大きい』のでしょうか」
「できれば両方」
「両方ですか。かしこまりました。弊社の外国人スタッフも決して多くはないので、地毛ではなくかつらになる可能性はございます。また、スタッフの整形についてはお受けできかねますがよろしいでしょうか?」
「ええ、そこまではしなくてもいいです」
「かしこまりました。外国人スタッフはどのタイミングでご利用なさるのですか?」
「セールの期間中に3回ほど利用を希望します。店のピークタイムは日によって違いますから、その時間になるまで待機をしていただき、頃合を見計らって私が今来てくれと連絡をします」
「期間中に3回ということですね。そして、日によって異なるピークタイムにあわせ、神谷様が待機中のスタッフに連絡をして召喚するのですね、わかります」
「それで、初回から3回目まで言い方は異なると思いますが、とりあえず店に来て、私に向かって『あのな、パーティー行かなあかんねん、パーティー行かなあかんねんな』と切り出して私に服の質問をさせてください」
「・・・少々お待ちくださいませ。3回全てにおいて、言い方は違えど、神谷様に『あのな、パーティー行かなあかんねん、パーティー行かなあかんねんな』と神谷様に服のことをお尋ねすると。申し訳ありません、2回目以降はどのような設定なのですか?2回目も初来店のようにするのですか?それとも『ああん、また来てもうたわ』等、台詞があったほうがよろしいいのでしょうか?」
「あー、うー、それでいいです」
「初来店の挙動は初来店時のみということですね。失礼ですが、関西弁なのですよね?」
「はい、うさんくさい関西弁です」
「当方の外国人スタッフでそのように器用に関西弁を使えるものがいるかどうか確認しなければなりませんが、おそらく訓練をする期間が必要とされる場合がありますのでご了承ください。平常時給は発生いたします」
「はい、わかりました」
「イメージとして描いていらっしゃるのはMr.BATERですか?」
「あ!そうです、そうです!」
「大変失礼ですが、神谷様のお店にベーターさんが来たとしてましょう。『Mr.BATERに会える店!』という触れ込みや噂がめぐったところでお店の売上に安易に結びつくものではないと思うのですがいかがなものでしょうか。もう15年以上前の話ですし」
※参考

「うっ」
「仮に私が自分のよく行くブランドに芸能人が通っているという話を聞いても、店に行く回数は多少増えても服を購入する回数がそこまで増えるとは到底思えないのですが」
「いえ、実はもうひとつ目的があるのです」
「もうひとつ目的があるのですね。伺います」
「実は、先日恩師の娘さんと食事に行ったのですが、その現場を妻に目撃され、浮気をしていたと言って聞かないのです」
「神谷様の恩師の方のお嬢様と食事をしていたのを奥様に見られてしまい、浮気をしていると誤解されたのですね」
「はい。恥ずかしながら妻に信用されておりませんでして、ですのでその、外人スタッフに方に、3度目の来店時にちょっとした、そのままのコントみたいに『そんなんお前、恩師の娘さんと食事行って浮気と間違えられるわ!』と、妻に聞こえるように言っててほしいんですよ」
「なるほど。よく見たシーンですね。繰り返します。『そんなんお前、恩師の娘さんと食事行って浮気と間違えられるわ!』と、3度目の来店時に言わせるのですね。奥様はお店のお手伝いをしていらっしゃるのですよね?」
「はい、その通りです」
「以上でよろしいのでしょうか」
「はい」
「それではお見積もりを取らせていただきます。お電話切らずにそのまま2分程度お待ちくださいませ」
「わかりました」
「神谷様、大変お待たせしました。お見積もり完了いたしましたのでお伝えいたします。ポスティングに関しましては時間×1450円、平常時給となります。それと外国人スタッフに関しましては、非常にイレギュラーな業務となりますので、かつらのリース代等は当方で負担いたしますが時間×1450円のほかに特殊形態労働手当が時間×800円かかります。それと、実務必要額として35521円発生いたしますがよろしいでしょうか」
「・・・もう少し、実務安くなりませんか」
「外国人にMr.BATERのコスプレをさせて店でモノマネという茶番を強制させるにはだいぶお安い価格とは思いますが」
「・・・はい、すいません。わかりました。それで結構です」
「それと、外国人スタッフについて作業内容の確認と是非について打ち合わせをしつつ適正なスタッフを選別いたしますので、明後日の同じ時間にお電話を差し上げてもよろしいでしょうか」
「はい、セールは来月の話ですのでかまいません」
「それではご依頼をお受けいたしました。担当は私、二ノ宮優有がお受けいたしました。よろしくお願い致します」
「お忙しいところ申し訳ありません。私、多目的人材派遣のKI-TSU-NEスタッフ、営業担当の二ノ宮と申します」
「あ!はい、はい」
「誠に申し訳ありませんが、弊社の身辺調査の結果、神谷様の恩師のお嬢様は実在せず、誤解などではなく事実、浮気が発生していたことが判明しました」
「うっ」
「それによって当方がお受けした業務について取り消しが行われるものではございませんが、来月のセールシーズンに外国人スタッフを使ってまでMr.BATERをフィーチャーし、売上増大を狙うのみならず浮気の誤解を解かせるという嘘偽りの内容を執り行うにはそれなりの社会的リスクが発生いたしますので実務必要額は倍額をお願いしたいと思います。弊社は多目的人材派遣会社であり、アリバイ工作会社や違法行為斡旋の会社ではございません。それにご不満がございましたら業務変更でも構いません。ご提案ですが、ここは神谷様はポスティングのみをご依頼なさり、浮気云々についてはしっかりと奥様と話し合い、今後一切浮気をしないことを誓約することが妻帯者としての責務ではないでしょうか」
「すいません、もういいです」
「キャンセルなさるということですね。それは本業務につきまし・・・課長、ご依頼内容104582番の神谷様、キャンセル頂戴致しました」
「二ノ宮さん、クライアントの神谷さんっていう方から菓子折りが届いてますけど」
「捨てな」
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