課「はい、お電話ありがとうございます、多目的人材派遣のKI-TSU-NEスタッフ、担当は私、猪元由正が承ります」
あ「…今の電話の音、なんですか?」
二「あー、あれは課長専用電話の」
あ「課長専用?だから電話が2台あるんですか、あそこのデスク」
二「そうそう。あれは人材派遣課の課長しか出ちゃいけない電話。あそこにかかってくるのは、あたしも詳しくは知らないけど法人の高額すぎる依頼とか、医療系、宗教系、警察系、学会系のあたしらには相手できない依頼が来るらしい」
あ「それってすごいですね、二ノ宮さんも出たことないんですか?」
二「ないなあ。禁止されてるから。幸い、月1回鳴る程度の世界なもんだから、課長が休みのときにかかってきたことはないねえ。まあ出たら怒られるから出ないけどさ」
あ「なるほどー」
二「全然成立しないらしいけどね。2、300万クラスの依頼が来るけど、そんなの月1で成立してたら課長の月間の業績はとんでもない額になってるよ。部長クラスの」
あ「2、300万!?」
二「まあ世の中にはそういう依頼をする人もいるってことだよ」
会「恐れ入ります、私は先週にそちらで会員登録を済ませた者です。会員番号は2668番。山本敬蔵と申します」
課「会員登録いただき誠にありがとうございます山本様。軽い人材依頼のご説明をいたしましょうか?」
会「いえ、資料は熟読しましたので大丈夫です。私もあまり時間がある方ではないので、すぐに依頼をお願いしたいのです」
課「かしこまりました」
会「で、それなんですが、あなたは臓器提供意思表示カードをご存じですかな」
課「いわゆるドナーカードのことですね」
会「はい。その通りです。そして私はドナーカードを所持しており、すべての臓器提供にマルをつけているのです」
課「ふむ」
会「ですから、私は死後に全ての臓器を医療機関に委ねる覚悟があるのです。しかし、私の家族がそれに反対しているのです」
課「ふむ。臓器提供意思をご家族が理解しておられないのですか。現在のドナーカードの現状を見ますと、失礼な話ですが山本様の死後に臓器提供はなされず、そのまま火葬されてしまうでしょうね」
会「そうなのです。どう思いますか。例えて言うならこれは遺言状を破棄されるようなものです。今のところ、私の甥ただ一人だけが私に賛同してくれています。しかしそれでは何の意味もないのです」
課「そうですね。奥様やご子息が反対していれば、殆ど意味はない。さて、つまり山本様のご依頼の要旨とは、それは?」
会「誰にもわからない密室と十分な医療器材、口の堅い医師をひとり、準備していただきたいのです」
課「…なるほど。だいたい理解できました」
会「お察しの通りです。正式な医師免許を持っている者、同意者としての私の甥がいれば私の望みは成就します。さらにそのときに臓器提供を受けるクライアントがいれば完璧です。いかがですか。どうか私の真意をーッ!依頼料は500万お出しいたします!」
課「あなたはまさか…先ほど時間がないと仰いましたが…」
会「はい…末期の肝臓癌です。もはや余命幾許もありません。今も病床で電話をしています。しかし!肝臓以外の臓器は!」
課「了承いたしました。このご依頼、お受けいたしましょう。まず、山本様の甥御さんにお会いしたいと思います」
会「それと、これは補足なのですが―」
課「はい?」
会「これが実現するだけでも私は十分です。しかし甥にも要望があるのでお伝えしたいのです。甥は、私のような、臓器移植を親族に反対される人たちのため、それについての記録を取りたいと言っているのです」
課「記録を?取りたい?」
会「はい、そして私の死後にそれを公表し、社会に公表したいと言っています」
課「記録…医師だけでは、不十分だと。例えば、カメラマンのような?」
会「恐らく。私は構いません。どうか甥の話も聞いてやってください」
課「かしこまりましたが…山本様、少しだけ会員情報の確認をしたいのですがよろしいでしょうか?」
会「どうぞ、構いません」
課「山本様のご家族で中世日本史を専門とした大学教授をしていらっしゃるのが、甥御さんでしょうか?そのような略歴が手元にございます」
会「はい。甥の片山裕太郎は大学で日本史と美術を専門にしています」
課「ふむ。山本様ご家族はこちらに在住しているが甥御さんは京都にお住まいである、と…中世日本史上の美術といえば嵯峨天皇とかですか」
会「いえ、私はそちらにくわしいわけでは…」
課「檀林皇后の絵は有名ですからねえ」
会「はい?檀林皇后とは一体何のことでしょう?」
課「失礼いたしました。では、細かい打ち合わせを…」
(3週間後)
LULULULULULULU
課「お電話ありがとうございます、多目的人材派遣のKI-TSU-NEスタッフ、担当は私、猪元由正が承ります」
甥「お世話になっております、私は先日お会いしました、山本の甥の片山です」
課「片山様。先日はどうも。叔父様のご容体はいかがでしょうか」
甥「はい、昨日、延命の甲斐なく亡くなりました。ですので、すぐに叔父の遺言どおりにしたいと思います。ですので、さっそく準備を…」
課「準備をするのですね。準備を。では、すぐに致しましょうwwww」
甥「? どうしたのですか?なぜ笑って」
課「自作自演ごくろうさんw」
甥「何ですか!叔父が死んだというのにその笑い方は!!どうなっているのですか!!」
課「まあまあ、そういきり立つこともないでしょう。そもそも寿命を縮めたのはあなたに他ならない」
甥「は!?」
課「余計なことを依頼し墓穴を掘った本当の会員。記録に残したいと言ってしまったのがあなたの過ちですな。カメラマンを依頼したかったのか。はたまた画家が欲しかったのか、そればかりはご自分で用意するべきではなかったのですか」
甥「な、なんのことを」
課「実際、私が用意した医師はわが社から依頼料を受け取り、しかもあなたから口止めの買収金を受け取った上に結局何の仕事もなかったのだからもの言わず、足はつかない。それはその通りだ。臓器移植の必要性はそこになかったからだ。あなたが必要なのはドナーカード記入など考えられない死にかけの老人が一人と、その死後を克明に記録する、ある程度精神の据わっているというか、気のふれた…カメラマンか画家。そしてその記録を現在の闇美術市場に持ち出せば好事家が大枚をはたいて買い取ることは必死でしょうな」
甥「な、な、何を言っているかわかりませんが…」
課「それはわが社への依頼費用、医師とカメラマンへの買収額を支払っても十分に有り余る。そして、わが社にスタッフ登録をしている『副業的に金だけが欲しい』専門家を利用すれば、社会が追求しようとしても足取りはわが社に突き当たり、警察が捜査したとしても『あーKI-TSU-NEスタッフなら金さえ積まれれば何でもやってそうだからあいつらが犯人だろ』と誤解をさせることができるとでも思ったのか、バカめ。わが社を利用したな?」
甥「ま、まて!どこにそんな証拠があるのです!」
課「あなたの専門である中世日本美術において、死後の記録といえば嵯峨天皇の妃である檀林皇后を描いた九相図が有名だ。有名と言っても知らない者は知らないだろうがな。私は檀林皇后の名を出してカマをかけてみた。電話越しだからわからないとでも思ったか。お前がその単語を聞いた後息をのみこんだのを私が察知できないとでも思ったか」
甥「な、なんだと、なぜそんな」
課「俺の知識をそこらの一般人と同等に見たのが間違いだ。会員の山本すなわち甥の片山。自作自演はもうおしまいだ。お前の真意は、病中の叔父を偽り、KI-TSU‐NEスタッフに共犯を依頼したうえ隠れ蓑に利用し、九相図を作成させ闇オークションで売りさばくことだったーっ!!」
甥「うっ!く、くっそォー!!!なぜ俺の、完璧な計画がぁっ!!」
課「会員が相手ならどのような要望でも期待に添えようとする、そんなわが社の名を騙ったり、利用して犯罪や法に触れる行為を画策する者が多少はいるということさ。お前がどこからこの電話番号を入手したかわからんがね、この電話番号はわが社のどこの資料を探してもホームページを探してもわからない電話番号のはずなんだよ。ある特定の機関の人間しか知らない、社内でもごく数人しか知らない、な」
甥「ち、ちっくしょおおおおおおおお!!」
課「もうすぐ警察がそっちに向かう。まあ早めに言い訳を考えておくことだな。幸いまだ罪状は尊属殺人だけで済んでいる。抗癌剤を止めさせたくらいか」
甥「うわああああ!!もう何もかもおしまいだあーっ!!」
課「俺に電話をかけたのが運のつきだったな。俺はなあ、お前みたいな、真実をねじ曲げる奴が、でぇ~っ嫌いなんだよ!!!」
あ「課長ーおべんと買ってきましたけど…あーあーあー」
二「うわーまた顧客にキレてるよ。あれさえなきゃあたしより単月の業績、上だろーになあ」
ガチャ
課「おーおかえり、弁当ありがとう」
あ「課長すいません、からあげ弁当なかったんですぅー(´・ω・`)」
課「えええええええ!!からあげ弁当ないの!?俺は一体何食えばいいんだよお!!」
二「いやー何か売り切れですって。天ぷら弁当でいいっすか、代わりに」
課「からあげじゃなきゃやだぁ~」
二「やだぁじゃねえよwww天ぷらの方が150円高えんだよ」
課「何なんだよ~高額の依頼も外すし、からあげ弁当はないし、今日俺もう仕事できないかもしれない~」
二「しろよw何で幼児退行してんだよww」
あ「課長!泣いちゃだめです!あたしのエビフライいっこあげますから!」
課「エビフライ!?」
二「バカwやめろw甘やかすなww」